メークアップでアカデミー賞を受賞した辻一弘氏のインタビューを見て、
久々に「この人は本物だ」と思った。
「今の日本の状況は夢を持ちづらいと思う。
日本は生活しやすいし危険を感じない、それでハングリー精神は出てこない。
自分が何をやりたいかを見極めるのが大事で、他人の意見は絶対に聞かない。
すでに出た答えに沿ってやらないことが大事。」
そうなんですよね。
日本は生活するのには安全だし食べ物は美味しいし本当に良い場所だけど、
それ以外は本当にしょうもない。
美食と酒とタバコとパチンコとアニメとゲームとエロぐらいの娯楽。
そんなもののために一生懸命働いて文明と安定を築いたのかと思うと、情けなくなる。
その安定的な日本の良さを否定するつもりはないし、無理に夢を持つ必要もないと思う。
でも、何かに向かってエネルギッシュに生きたいという人には、
なかなか目標が見出しにくい、走りにくい環境であることは事実だと思う。
人はそういうとき、海外に活路をやはり見出すのだと思った。
明治維新のときに進取の精神を持った人々もそうだった。
アメリカなんてまさに成り立ちがそういう国だ。
「辛さ、苦労に満ちている人の顔はゆがむ。
それを乗り越えて何かを成し遂げた人の顔は本当に素晴らしい。」
これも本当にそうだと思う。
氏は、人間の顔についての本当のプロフェッショナルだと思った。
ライオンキングの悪役であるスカーのマスクはゆがんだ形をしている。
それに対して、偉大な王様であるムファサのマスクはまんまるい形をしている。
結局すべてバランスだという結論にいつもなるが、ここでもそうなる。
また氏は、ハリウッドというブランドや、受賞について、特に媚びるわけでもなく、
むしろ懐疑的であるように見え、そこもまた素晴らしいと思った。
大事なことは受賞ではなく、仕事の中身そのものであると。
これは私も多くの日本人に声を大きくして言いたい。
特に芸術作品の場合、自己満足もあるかもしれないが、
その作品がどれだけ人の心をうつかが唯一最大の焦点であり答えであって、
誰にどういう賞をもらうかなど、どうでもいい話のはずだ。
自己満足であれば国であれアカデミーであれ、他人の評価を気にする必要は全くないわけで、
自分で自分の仕事の評価をすればいい。
しかし日本のマスコミは殊更、何においても、受賞という形式をチヤホヤする。
それはオリンピックでも、ノーベル賞でも、なんでも全て同じだ。
過度に形式主義というか、権威に弱いというか、もっと本質を見れないものだろうか。
人はパンのみに生きるにあらず。
そのパン以外が、ゲームとエロという末期的な症状をどうにか改善するために、
氏のような本物の芸術家に、ぜひとも一層活躍していただきたいものだ。